明日母になりたい、1個の凍結卵子の希望 

私は「母になること」が彼女にとって何を意味するのか分かりませんでした。卵巣機能不全であるのにも関わらず、なぜ卵子凍結を希望するのでしょう。 なぜ 「卵子提供」で子どもを授かるという選択肢がないのでしょうか?理解しがたいことばかりで、ただ分かったことは妊孕性(妊娠する力)を得ることは彼女にとって非常に重要だということでした。たった1%のチャンスしかなかったとしても挑戦したい 、その決意が私の好奇心をかき立てました。

2009-05-09

明日母になりたい、1個の凍結卵子の希望 

月曜日の朝、「母になること」のチャンスを掴んでおくため、卵子凍結に訪れた彼女に、私は 「できるだけ早く結婚すること」を勧めました。  
彼女は 迷った末、数秒経ってから閉ざしていた口を開き、 「もし、先生が私の治療を受け入れないなら、アメリカで体外受精を行います」と言いました。 私が「それは賢明とはいえません。子どもを産むこととペットを育てることは違いますよ 。子どもからお父さんの愛情を奪ってはいけません。」というと、彼女は悲しそうに「私の卵巣機能は既に衰えているので、卵子凍結をしなければ、もうチャンスはありません」と答えました。
    
私は「母になること」が彼女にとって何を意味するのか分かりませんでした。卵巣機能不全であるのにも関わらず、なぜ卵子凍結を希望するのでしょう。 なぜ 「卵子提供」で子どもを授かるという選択肢がないのでしょうか?理解しがたいことばかりで、ただ分かったことは妊孕性(妊娠する力)を得ることは彼女にとって非常に重要だということでした。たった1%のチャンスしかなかったとしても挑戦したい 、その決意が私の好奇心をかき立てました。

 彼女は今年で39歳。 子宮 内膜症と子宮筋腫による 卵巣機能不全のため、最後に採血した卵子在庫量を測定する採血結果では、AMH1.0に及びませんでした。 その検査結果が卵子凍結をしたいと考えるようになった主な理由のようです。 再確認するために、もう一度検査をするとAMHの結果は0.77、FSHは22.1に達しており、超音波検査で確認できた小卵胞数は左右それぞれ2個でした。私は  卵子凍結できる卵子には限りがあること、「できるだけ早く結婚」し、体外受精を行うのが最善であることを伝えると、  彼女は「そう私も考えました。でも短期間でやり遂げるのは無理です」と言いました。

  「結婚」と「母になること」は多くの女性の願いでもあります。彼女には一度の結婚歴があり、頼りになる男性と再婚したいと願っていましたが、出会って半年の彼氏とは、今すぐに結婚にしたいなんて話し合うことはできません。もともと年末に予定していた結婚が延期になり、なかなか進まない結婚に彼女は不安を感じていました。いつか結婚した時、子供を授かることができないのではないか、幸せな結婚生活を送ることができないのではないか、 多くの「心配」が彼女をとても不安にさせ、パニックに陥らせました。

  一回目の排卵誘発で、育った卵胞はたったの一個。 この結果に、私は 彼女に考えを変えるよう諭しました。 卵子がない場合は、卵子提供を受け子どもを授かることが進みやすい道となります。一つの卵子に彼女の全希望を注がないように伝えましたが、彼 女の心を動かすことはできませんでした。 彼女は、たとえ卵子を一個しか得られなかったとしも、諦めないと決めていたのです。4回採卵手術を行う予定だったた め、私は「全力で協力すること」しかできません。彼女の揺るがない態度は「子どもをもつこと」と「結婚をすること」どちらが彼女に必要なものか、 私を悩ませました。
 


 

  
彼女にとって、「卵子凍結」「結婚」「母になること」の間には微妙な関係があります。妊孕性(妊娠する力)を失う前に結婚はできるのか、  妊孕 性(妊娠する力)を失っても、その現実を受けとめられるのか、将来の夫は、提供卵子による出産を受け入れてくれるのか?
そもそも、この人生で母になることができるのか?多くの不確実性と予測不能な未来が、彼女を「恐れ」させました。妊孕性(妊娠する力)の保存は彼女が考えついた最善の方法であり、唯一彼女を安心させることのできる良薬のようなものでした。 これ が彼女が月曜の朝に急いで診察を受けに来た理由です。 彼女にとって一番重要なことは何でしょうか? 「妊孕性(妊娠する力)」の保存により「母になること」かもしれません。「花嫁になること」は「子どもを授かること」より重要かもしれません。卵子凍結の動機はすでに曖昧になり、保存されるのははっきりとは言い表せない「価値」となりましたが、これにより彼女は自信を持ち「脅威から遠ざかる」ことができるのです。
   
採卵手術当日、予定どおりに「一つ」の貴重な卵子を凍結することができました。それは、私が今まで見た中で最も葛藤に満ちた状況でした。この瞬間「 母になること」と「花嫁になること」のチャンスは一時的に凍結され、未知の世界に封じ込められましたが、一方でその瞬間から、彼女は「恐怖」から遠ざかり、同時に「現実」の世界で再び希望と自信を見出したので  


人は恐怖を感じると理性を失いやすいものです。恐怖を避ける最善の方法は、それを「起こさせないこと」。しかし恐怖を克服するには「考え方を変えること」が必要です。 「失う痛み」と「失うことへの恐怖」、皆さんが怖いのはどちらでしょうか?
もし失うことが避けられないのなら、「恐怖」に囚われるよりも、まず「痛み」を受け入れたほうがいいでしょう 。なぜなら、痛みの先には「幸せ」と出会う可能性があるからです 。考え方を変えれば、痛みから抜け出すことができます。「母になること」は必ずしも「花嫁 になること」と結びつく必要はないし、母になる方法も「自分の卵子」だけではありません。考え方を変えることで光が見え、「恐怖」から抜け出すことができるでしょう。この過程には時間がかかりますが、心を開くこと(Open mind)が大 切です。 

「明日、母になれるかどうかは卵子ではなく、『心』にあります。」

コメント:

  1. 「できるだけ早く結婚すること」:  
    台湾では婚姻関係にある夫婦のみ、体外受精の治療を行うことができます。未婚や離婚した方が「母になること」は容易ではありません。 まず「結婚」し、子どもを授かることが唯一の方法です。 自由の国アメリカでは、婚姻関係がなくても体外受精を行うことができますがコストは高く、加えて不確実な要素が多いため、お勧めはできません。
     
  2. 卵子の在庫量を測るうえで、重要な指標となるのはAMH、FSH、そして月経周期初期に確認できる胞状卵胞の数(AFC)です。AMHが2以下の場合、1周期の卵胞数が4個以上あることは少なく、FSHの25という数値は、すでに閉経に近づいていることを意味しています。AFCは生理周期の左右両側の小卵胞をあわせた数で、その周期の卵胞総数に反映しています。
     
  3. この2年で卵子凍結の技術は大きな進歩を遂げ、卵子の融解生存率は90%以上、受精率は50%以上に達し、年を重ねた未婚女性の妊孕性(妊娠する力)の救世主になる可能性があります。卵子凍結の応用範囲は、技術の進歩とともに広がりつつあります。子宮を持たない女性も、代理出産法が成立する前に卵子を凍結し、生殖の可能性を保存することができる。また35歳に近づき、まだ「花嫁になること」を考えていない未婚女性にとっても、将来の選択肢を残すために「卵子凍結」は有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
     
  4. 彼女は2009年に結婚し、11月に2個の卵子を融解しました。幸運なことに2個とも融解後も生存、その後受精を行い、3日目まで培養した2つの8分割胚を移植しました。そして2010年8月に無事、女の子をお一人ご出産されました。本当におめでとうございます。
     
  5. 「明日、母になりたい」このシリーズの文章では、何らかの理由によりすぐに「母になる」ことができず、妊孕性(妊娠する力)を保存するために「卵子凍結」を行い、将来ママになることを待っている「未来のママ」の物語をお届けしています。

 

              

*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。