卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
卵巣過剰刺激症候群、私たちはOHSSと呼んでいます。発生しやすいのは採卵手術後、卵巣が排卵剤の刺激を受けた後に起こるもので、症状としては下腹部の張り、腹部上部の痛みや、尿の減少、口の渇きや呼吸困難、吐き気・嘔吐等があります。このような症状が現れた場合は、他の合併症を引き起こさないためにも、担当医または不妊治療専門医により処置が必要となります。
2007-12-18
OHSSとは
OHSSは卵巣が排卵誘発剤の刺激を受けた後、過剰に反応したために症状を引き起こすものです。よくある症状は上腹部・下腹部の痛み、尿の減少、喉の渇き、呼吸困難、吐き気、嘔吐などです。主な原因は個人の体質、卵巣機能、排卵誘発剤の種類や量に関係がありますが、はっきりとは分かっていません。体内のあるホルモンが原因ではないか(エストロゲンが高い、ヒト絨毛性ゴナドトロピンが高い)、とあるホルモンが血管透過性を亢進させ、血管内の成分(アルブミンや電解質等)が血管の外に滲出、それが腹腔、胸腔などに流れ溜まることで、血液が濃縮(Hemoconcentration)し、血流が緩やかになったり、腹水・胸水の蓄積や尿の減少などの症状を引き起こす可能性があるのではと推測されています。
発生リスクの高い人
1・若く細身の小柄な女性
2・多嚢胞性卵巣症候群の女性(PCOS)
3・卵胞数が15個以上の人
4・エストロゲンの数値が高い人…など
起こりやすいタイミング
症状は通常排卵(或いは胚移植)後7日~10日目に現れます。もし胚移植後1週間以内に起こった場合は卵巣(排卵)と関係があり、胚移植から2週間後に起きた場合は妊娠と関係があると言われています。
どのようにリスクを下げる?
リスクの高い方には黄体期のHCGの補充をさける、また水分制限をせずに済むよう、排卵誘発剤の量や種類を調整します。人工授精の治療中に発生した場合は体外受精に切り替え、採卵手術を行うようアドバイスします。また体外受精の治療中に起きた場合は治療を中止する、または胚盤胞を凍結し、次の周期に融解・移植を行っていきます。
治療
以前、血清アルブミン(Albumin)を注射することによりOHSSの発生を予防することができるとの研究がされましたが、更に研究を進めていくとその効果はないことが証明されました。現在、効果的な予防策及び治療法はありません。もしOHSSになってしまっても慌てず、担当医・経験豊富な訓練を積んだ医師に連絡をしてください。いずれの医師も処置をすることが可能です。一般的には水分と電解質を補充、腹水を出す、血清アルブミン補充などを行い、症状を和らげます。
予後、病気に関する見通し
重症なOHSSの発生率は5%未満です。つまり20人に1人なるかならないかの確率で、また大多数の方は軽症なため、診察での簡単な処置のみで入院をすることはありません。重度で入院する患者さんは極僅かです。処置も後遺症や命の危険の心配はなく、症状が軽い方は処置することなく2週間ほどで自然に改善します。ただし妊娠(人工授精・新鮮受精)している場合は、症状が更に1週間ほど続く可能性があります。特に注意するべきはOHSSになった際、かかりつけの医師または不妊症専門医師により処置をしてもらう方が安全ということです。治療の方向性を間違えてしまうと、他の症状を併発する可能性があります。
妊娠しているからこそOHSS発症期間が長くなるということなので、あまり気落ちする必要はありません。症状のつらさは代償なのかもしれませんね。
(当院では凍結胚融解移植を行っているため、移植後に発生することはありません)
*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。