子宮内膜は準備OK?ERA検査が教えてくれること

従来、子宮鏡検査で子宮環境を、また採血検査や超音波検査の画像により子宮内膜に異常がないかを確認していましたが、ERA検査は、更に高精度に不妊の原因を取り除くことができます。

2021-08-25

子宮内膜は準備OK?ERA検査が教えてくれること

胚盤胞着床の30%に影響する?

無事、出産を迎えるための要素はいくつかあります。生殖技術は発展を続け、子宮鏡や卵管造影、子宮頚部培養など、様々な検査で子宮の着床環境を確認した後、PGS/PTG-A(着床前スクリーニング検査)を合わせた移植を行うとその妊娠率は6、70%へ達するまでになりました。では残りの30%はどうでしょう?胚の着床とその後の成長には、他にどんな要素が影響するのでしょうか。

子宮内膜は月経周期の「着床の窓」と呼ばれる特別な時期だけ開き、胚盤胞を着床させることができます。約70%の方はこの着床の窓が開くのは月経周期18~20日目頃で、残りの30%の方はこの時期には当てはまりません。子宮内膜着床能検査(ERA)では黄体ホルモンを服用した後、子宮内膜を採取し次世代シーケンサー(NGS)分析にかけます。そして子宮内膜着床能に関する遺伝子を調べ、最も移植に適した時間を検測します。

習慣性流産 1/4は移植の時間ミス

2018年11月から2020年7月の間で、合計3個以上、染色体に異常のない正常な胚盤胞を移植し、妊娠に至らなかった(反復着床不全 RIF)47名の患者さまを対象に、子宮内膜着床能検査(Endometrial Receptivity Analysis,ERA)を実施し、着床の窓(Window of Implantation, WOI)を調べた結果、以下のようなERA検査結果と移植後の結果となりました。

  周期数 平均年齢 平均卵子年齢 BMI 治療時間(年) 治療回数
RIF 33 37.8±4.5   24.2±4.0 2.9±2.0 7.0±4.8
RIF-卵子提供 14 45.1±3.9 27.1±3.5 22.7±2.5 6.0±5.2 4.6±2.1
全て 47 40.0±5.4   23.6±3.5 3.9±3.5 6.2±4.4

 

"反復着床不全の方の内、約25%の患者様は移植の時間を調整する必要があります。”


反復着床不全のグループの内、黄体ホルモン服用120時間後に実施したERA検査結果で、子宮内膜がReceptive(着床期)は75%を占め、その他の25%は移植時間を調整する必要があることが分かりました(8%の方は移植を12時間遅らせる、17%の方は移植を12時間早める必要がある)。これは検査機関が公開している69.8%とごく近い結果です。

ERA検査結果をもとに移植をしたグループ別と、その妊娠率                   

  周期数 平均年齢 平均卵子年齢 平均移植個数 妊娠率% 着床率 流産率
RIF 33 37.8±4.5   2.0±0.6 48.5
(16/33)
29.2
(19/65)
12.5
(2/16)
RIF-卵子提供 14 45.1±3.9 27.1±3.5 2.0±0.4 64.3
(9/14)
42.9
(12/28)
11.1
(1/9)
全て 47 40.0±5.4   2.0±0.6 53.2
(25/47)
33.1
(31/93)
12.0
(3/25)

 

ERA検査結果をもとに移植をしたグループ別と、その妊娠率

例:自身の卵子を用い移植を行った患者さまのERA検査結果(黄体ホルモンを120時間補充)は「Early receptive」で、黄体ホルモンを146時間補充後に移植した方が良い、ということが分かりました。この患者さまはNon-Receptiveの中のEarlyグループに属しており、検査結果に基づき移植を行うとこのグループの妊娠率は50%となりました(2人のうち一人は妊娠)。

 

"選定した胚(染色体正常な胚)+タイミングを合わせた移植(ベストな時間)で妊娠率が更にUPします!”

 

 

検査結果を見ると、Non-ReceptiveのグループはReceptiveグループよりも妊娠率が高いことが分かります(59.3% vs 45.0%)。このグループは着床の窓が開く時間が早い/遅い事が反復着床不全の主な原因だったため、検査を行い正しい移植の時間の時間を把握することで妊娠率が上昇したと言えます。

妊娠率 Receptive Non-Receptive
total Pre Early Late Post
RIF 43.8
(7/16)
56.2
(9/17)
75
(3/4)
50
(1/2)
37.5
(3/8)
71.4
(5/7)
RIF-卵子提供 50.0
(2/4)
70.0
(7/10)
- 50
(1/2)
100
(3/3)
0
(0/1)
全て 45.0
(9/20)
59.3
(16/27)
75
(3/4)
50
(2/4)
54.5
(6/11)
62.5
(5/8)

 

ERAは従来の子宮鏡検査で子宮環境を確認するより、また血液検査の数値や超音波の画像で子宮内膜の異常の有無を判別するよりも、更に高い精度で不妊の原因を取り除くことができます。
当院では2016年よりこのERA検査を導入しており、今年8月までに2024個の検体を送検したところ、そのうち1297個(約64%)がReceptive、702個(35%)がNon-Receptiveで、1%が診断なしという結果でした。

度重なる淘汰や選定の結果、染色体正常な胚を得ることは容易ではありません。移植後2週間に費やす費用と時間は形あるものですが、妊娠に至らなかった時の心にずしんとくる気持ちは形のない負担となります。移植の前にERA検査を行い、良好な胚とベストなタイミングで移植を行うIVF 3.0+の治療をすることで、より早く新しいご家族を迎えることができるでしょう。


コメント

  1. 従来では超音波検査の画像とホルモン数値により、子宮が着床に適しているかを確認していましたが、超音波検査は画像を主観的に判断するものでした。子宮内膜着床能検査(ERA)は内膜に関するRNAの変化を検測します。更に精度が高く、また客観的に遺伝子地図を参考にし、一人一人の着床の窓を調べることができるので、その結果に基づいた移植を行うことにより妊娠率を高めることができます。
  2. 下図は院内2018年~2020年6月よりERA検査に基づき行った移植の結果です。non-Receptiveのグループで移植時間を調整した結果、生化学的妊娠率(BPR)は70%、臨床妊娠率(CPR)は60%に上り、着床率(IR)も50%近くにまで達しました。これからも正しい移植のタイミングを知ることは非常に重要ということが分かります。

  • 反復着床不全の原因は、DNA、年齢、子宮内の環境、免疫異常など多岐にわたります。PGS検査を行い染色体正常な良好胚を選定し、ERA検査により最適な移植のタイミングを把握することで、80%の問題は解決できると考えています。IVF3.0+(PGS+ERAを合わせた体外受精治療)はいわば鍵です。正確な移植を行うことで、反復着床不全の鍵を開けることができるでしょう。

 

 

*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。