卵子提供を受ける前に必要な検査とは?

コロナ期間中、治療ストップを余儀なくされていた海外からの患者さまが、入国制限撤廃後、続々と当院での治療をスタートされています。距離的なことから多くの方がフライト・ホテルの手配が必要となるため、お越しいただくだけでも手間暇がかかります。そこで本編では、卵子提供治療をご検討中の方のために、渡台前に実施が可能な検査や来院が必要となる検査など、渡航回数を最小限に抑え準備万端で治療を進めていただけるよう、卵子提供に関わる検査項目などをご紹介します。

2023-11-07

卵子提供を受ける前に必要な検査とは?

コロナ期間中、治療ストップを余儀なくされていた海外からの患者さまが、入国制限撤廃後、続々と当院での治療をスタートされています。距離的なことから多くの方がフライト・ホテルの手配が必要となるため、お越しいただくだけでも手間暇がかかります。そこで本編では、卵子提供治療をご検討中の方のために、渡台前に実施が可能な検査や来院が必要となる検査など、渡航回数を最小限に抑え準備万端で治療を進めていただけるよう、卵子提供に関わる検査項目などをご紹介します。

卵子提供を受けるための一般的な検査:

  検査項目 検査内容
レシピエント(夫) 血液検査

血液型(ABO,Rh±)
エイズ・梅毒

精液分析 精液分析(Semen analysis)
レシピエント(妻) 血液検査

血液型(ABO,Rh±)、エイズ・梅毒
ホルモン:甲状腺刺激ホルモン(TSH)、プロラクチン(Prolactin)
自己免疫抗体、プロテインS(Protein S)、ハイレベル免疫(当院にて実施)
肝臓・腎臓・心臓機能(45歳以上、または慢性的な血管疾患のある方)

子宮検査 子宮鏡
子宮頸部生検: クラミジア,HPV
子宮內膜着床能機能検査(ERA) (オプション)
卵管検査 卵管造影検査
胚盤胞   着床前スクリーニング検査(PGT-A/PGS) (オプション)
着床前遺伝子診断(PGT-M/PGD) (オプション)

 

上記、何項目かは必要とされた場合に実施:
 

精液分析:


人工生殖法の規定により生殖細胞の提供を受けるには、夫婦のどちらか一方は健康な配偶子(妻:卵子、夫:精子)を有していることが前提のため、卵子提供を受ける際には、夫が無精子症でないことを確認する必要があります。
 

子宮鏡検査:


直径約3㎜ほどの細いファイバースコープで子宮の内部を観察します。超音波検査に比べて子宮鏡検査は診断の正確性が高く、極小さなポリープのみならず、子宮腔内にある筋腫がどれくらい子宮を圧迫しているかなども、正確に確認することができます。更に超音波検査では診断できない癒着や子宮内膜症についても、一定の診断が可能となります。但し子宮鏡検査は子宮腔内のみ確認が可能で、それ以外については、やはり超音波検査による診断が必要となります。
 

卵管造影検査


卵管造影検査は診察の際、よく質問を受ける検査の一つです。移植はまず外筒を膣、子宮頸部、そして子宮腔内へと通し、その外筒内にカテーテルを通して行われるため、移植の過程では卵管を通ることはありません。しかし卵管水腫の有無を確認するため、体外受精治療において卵管造影検査は重要な検査の一つとなります。
卵管水腫の原因は卵管自体或いはその付近の炎症(例:急・慢性骨盤痛(chronic pelvic pain, CPP、子宮内膜症、手術)等が卵管の癒着・閉塞を引き起こし、その症状が進むことで卵管内に水が溜まることにあります。統計によると、卵管に溜まった水が逆流し着床の妨げになったり、卵管液そのものの毒性や酸化ストレスなど、卵管水腫により体外受精妊娠率は半減すると言われるため、その影響は甚大です。もし卵管水腫と診断された場合は、温存しつつ治療を行うのか、それとも移植への影響を避けるため手術を行うのか、その症状の程度により医師と相談することができます。
 

着床前スクリーニング(PGT-Aneuploidy) / 着床前遺伝子診断(PGT-Monogenic disorder)


前者は胚盤胞にある23組の染色体の一部分、或いは1本そのものの増減を確認するもので、体外受精を行う35歳以上の方や、習慣性流産、反復着床不全の方、そして夫婦どちらかに平衡型転座をもつ方などが多く受ける検査です。
後者はすでに分かっている単一遺伝子疾患に対し、遺伝子変異の有無を調べる検査です。単一遺伝子疾患の変異部分は非常に小さく、更に単一DNA変異のみの可能性もあるため、PGT-Aで診断することはできません(PGT-Aの検査には10Mb以上の欠損が必要)。そのため家族に既往歴がある場合や、夫婦双方が保因者など単一遺伝子疾患リスクの高い方は、まず特定のプローブを作成する必要があります。ドナーの大多数は35歳以下と若く、院内の統計によると、卵子提供による胚盤胞の正常率は55%となるため、レシピエントは自身でその検査実施について決めることができます。個人的な考えは次の通りです:PGT-A未実施の胚盤胞1個を移植した際の妊娠率は40%、そしてPGT-A検査を経た正常胚を移植した際の妊娠率は70%、そのうち双子の確率は1%となります。1回の移植で2個の胚を移植することで、妊娠率を60%にまで高めることができますが、同時に20~30%の双子のリスクを伴います。双生児妊娠は子癇前症や妊娠糖尿病、妊娠期の出血や34週未満の早産など、母体に対する様々なリスクが増加するだけでなく、新生児に対しても一定の負担が生じるため、個人的には早い段階でメリット・デメリットを考慮し、PGT-A検査の実施について検討するのがいいと考えています。

また前述にあった単一遺伝子疾患については、その検査実施率は世界で見ても僅か1%で、それらの疾患による新生児死亡率は20%にまで上ります。この数年は検査技術の進歩と検査費の引き下げにより、遺伝子疾患の背景や、過去の検査結果をもとに妊婦検診で勧められた方が受けるなど、その検査数は増加傾向にあります。
 

保因者スクリーニング検査
(Expanded Carriere Screening/ECS)

妊娠前の時点で、疾患を持つお子さんを出産可能性がある方たちに対しては、遺伝子カウンセリングを経て着床前遺伝子診断(PGT-M/PGD)を受けることにより、発症しない胚盤胞を選び移植をすることができます。また、さまざまな意見はありますが、現在は卵子提供を受ける前に実施可能な、更に一歩進んだ検査もあります。
簡単に説明すると、人の染色体は全て2組ずつですが、潜性遺伝すなわち染色体の内1本の配列が変わっても、発症することはありません。ただし2本の染色体が変わってしまうと、発症を引き起こす可能性があります(下図参照)。また男性の性染色体はXYそれぞれ1本ずつのため、配列に変化が生じると発症を回避することはできません。

現在当院では、比較的多いと言われる脊髄性筋萎縮症地中海貧血を、ドナーの基本検査として検査を行っています。また現在、卵子提供を受けるご夫婦は保因者スクリーニング検査を受けることにより、マッチングの段階で子の罹患の可能性などを知ることができます。但しこれら遺伝子スクリーニングは遺伝性に問題ない双方が受け、もし同じ遺伝性疾患の保因者だった場合は、医師と発症の程度やその可能性について説明を受けることが大切です。


*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。