胚盤胞は予想通りに着床しない、ERA検査をするべきですか?

「先生、胚は着床しますが、その後の発育があまり良くないです。ERA(子宮內膜着床能検査)をした方がいいですか?」Yさんと出会うまでは、反復着床不全の専門書に記載のある一文、「良好胚が間違った着床期に着床すると、枯子卵になる可能性がある」と軽く受け流すだけでした。そんなことを繰り返していると、その言葉を言う気さえ無くなって来たのです!

2023-02-07

胚盤胞は予想通りに着床しない、ERA検査をするべきですか?

人工授精で流産二度経験した後、IVF3.0+を試す

Yさんが最初に診察へ来た目的は妊活健診をする為で、自身の生理が不規則だったこともあり、妊娠についての積極的なアドバイスを希望していました。検査の結果、排卵以外に問題はなくYさん自身もかなり若かったため、初めての治療は排卵誘発剤服用によるタイミング法を行うことにしました。

その後タイミング法を試して4か月が経ちましたが、妊娠には至らなかったため、人工授精へ切り替えることに。
全ての疑惑はここから始まったのです。

人工授精1回目から10日ほどたったある日、出血が始まりました。Yさんは出血の症状が悪化してから再診され、行った妊娠判定は残念なことに陰性という結果でした。薬の服用法を見返してみても、黄体ホルモンの補充は十分だと私は思いましたが、Yさんとの相談の結果、次の周期では内膜の安定のために黄体ホルモンの注射剤を使用することし、また同じような状況になったら、すぐに再診に来るようお願いしました。

人工授精2回目の10日ほど経った頃、再び出血が起こりました。今回はすぐに再診に来たYさんに採血による妊娠検査を行うと、胚は既に着床していることが分かりました。ただ人工授精12日後のHCG(ヒトゴナドトロピン)4.03mIU/mLは理想的な数値とは言えません。今後も厳しいだろうと伝え、4日後に再検査を行うと、なんとHCGの数値は32mIL/mLにも上昇していたのです。胚が発育を続けているのは喜ばしい事でしたが、一方で子宮外妊娠の恐れもあったため、この時の気持ちは嬉しさと不安が半々でした。その後のHCGの上昇は順調で、子宮腔に胎嚢を確認できたことで子宮外妊娠のアラートは解除されましたが、喜びも束の間、数日後に大量の出血があり、早期流産という結果に終わってしまったのです。
 

着床の窓を確認し、成功へ

2度の人工授精を経て、人工授精1回目の出血は着床出血だったのでは、と私は考え始めました。12日目のHCGの数値は4mlU/mL、つまり着床から僅か1、2日しか経過しておらず、通常の着床のタイミングと比べると5日ほどずれていることを意味します。そこで私はYさんに当院の治療プランIVF3.0+を試してみませんかと提案しました。着床のタイミングは後ろにずれ、また胚盤胞に到達するまで時間がかかったことで、染色体異常率が高くなってしまったに違いないと考えたからです。

卵巣を刺激する事で、Yさんは13個の卵子を得ることができましたが、その後の培養結果は理想的とは言えませんでした。最終的には2つの5BBグレードの胚盤胞しか得ることができず、PGS検査を行った結果、1つは異常胚、もう一つは低モザイク胚ということが分かりました。その他の自己免疫検査・卵管造影検査・子宮鏡検査などを行い、流産の原因となりうるような不安要素がないことは確認済みです。

ERA検査を行ってみると、驚いたことにYさんの着床の窓は、後ろにずれているどころか、108時間だということが分かりました(通常は120時間)。あれほど自信満々に推察していたのが非常に恥ずかしいです。唯一移植が可能なモザイク胚移植のリスクを十分話し合った後、ERA検査結果に基づき移植を行うと、16日後のYさんのHCG妊娠指数は文句なしの2,846mIU/mLという結果でした。

初期の頃は順調だったものの、抗リン脂質抗体の数値が移植後に上昇、その後も度重なる出血、血栓数値の上昇に切迫早産など、Yさんの妊娠の道のりは決して平坦なものではありませんでした。アメリカの産婦人科医学会では、モザイク胚の移植後は羊水検査を行い染色体の確認をするべきと提案していますが、私たちは初歩的なスクリーニング検査でもある、私たちは初歩的なスクリーニング検査でもある、非侵襲的出生前検査(NIPT)を行うことで、異常がないを確認しました。
 

正しい着床のタイミングで移植を行わないと、流産へつながる恐れが
 

私たちの一番の先生は患者さまです。百聞は一見に如かず。教科書や論文を何度読み返しても、この目で直に見るのが一番です。私たちを信じて通院なさる皆さまには、常に感謝の気持ちでいっぱいです。


Yさんの治療歴は、モザイク胚の移植・血栓・免疫、切迫早産などまだ討議できる点が多くあります。しかし、やはり一番印象に残っているのはERAで確認した着床の窓(着床のベストのタイミング)以外でも胚は着床し、胎嚢まで発育することができると分かった点です。Yさんの後にも、ベストなタイミングからずれた着床により、流産となる同様のケースがあったことから、「着床はするけれどERA検査はした方がいいですか?」との問いに、今は自信をもって答えることができます。
 

*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。