会いたい!反復着床不全の後に(1)
反復着床不全?移植後、妊娠しても順調に育たない或いは流産?この時、最も重要なのは一度立ち止まり、反復着床不全の本当の「原因」を探すことにあります。
2020-03-02
不妊治療の過程で「悲しみよりも更に悲しい物語」はあるのでしょうか?
汪用和(台湾のアナウンサー)の「14年!あなたを待っていた」、黃光芹(台湾の貴社・評論家)の「辛い治療は何度もあの世へいったようなものだった」。お二人は最後に養子を迎えたことで知られていますが、他にも有名モデルの林志玲さん(2022年1月出産、本編公開時は治療中)や歌手の張秀卿さんなど、多くの方が治療を行っています。諦めたくないと最後まで本編をご覧いただいた方は、次にどう進めばHappy endingを迎えられるのでしょうか?
会いたい!と会う約束をしたのに、最後の最後で会うこともできず、再度の約束も叶わない。もし「わざとではなく」急に約束をすっぽかされたとしたら、どう感じますか?信頼を失った友情なら関係を絶つのも惜しくないかもしれませんが、不妊治療の場合はどうでしょう。反復着床不全で原因も分からないまま、同様の方法で期待が持てるのでしょうか?
別の場面にあてはめてみましょう!この上ない悲しみは、毎回の移植で妊娠したにも関わらず、胎児は成長を続けることができずに流産してしまうことです。僅か数日間を喜んだのも束の間、泣き崩れるあなたは医師から「また頑張りましょう!」と声をかけられ、心はさらに押しつぶされてしまうでしょう。泣きはらすことで立ち上がることができれば良いですが、2・3回もそれが続くとなると一体誰が耐えられるでしょう。
誤った道では、永遠にゴールへ到達することはできない
2度の移植失敗、または連続2回の流産した場合、それは「原因」があることを示します。この時に最も大事なのは一度立ち止まり、その「犯人」を探し出すことです。
原因は必ずある!と私は考えています。成功は「正しい治療」によるもので、言い換えれば誤ったやり方や「正しく行えなかった」事を正確に探し出し、排除をしていけば、次に成功しないはずがありません。
当院にいらっしゃる方たちこそが先生です!2020年2月29日に当院を卒業され、笑顔で診察室を後にした3名の患者さまの実際のケースをご紹介します。偶然にも皆さん苗字が「葉」なので、ここでは「葉1」、「葉2」、「葉3」さんと愛称を込めて呼ばせていただきます。
39歳「葉1」さん
「葉1」さんは当院での初診前、他院で2回の移植を行った治療歴がありました。1度目の移植は体外受精にPGT-A/PGSを併せ実施しましたが妊娠には至らず、着床の窓(WOI)がずれていたと考えられたため、妊娠判定(-)後にERA検査(子宮内膜着床能検査)を実施しました。すると黄体ホルモンを1日多く服用することで、内膜細胞が胚盤胞を迎え入れるタイミングになると分かったのです。
2回目は「正しいタイミング」で移植を行い、予防のためにヘパリン注射も打つと見事妊娠!しかし原因も分からず、妊娠8週で心拍停止となりました。彼女は移植後1〜2週間ずっと出血がありましたが、その際に行った血栓や免疫に関する採血結果は全て正常だったため、医師はヘパリンの量を2日に1回から3日に1回へ減量、同時に黄体ホルモンを追加投与するも、妊娠継続はできなかったと言いました。
心拍停止で最も辛いのは流産ではなく、「何が原因か」が分からないこと
再度採卵手術を行いましたが、完全な染色体正常胚を得ることはできませんでした。モザイク胚(DNA微細な増減)は移植出来るのでしょうか?この年齢の場合、PGT-A/PGS未生検胚の染色体異常率は2/3に上ります。どのようにすれば成功できるでしょう。私の経験上、移植から妊娠判定までの鮮血の出血は、「血栓」によるものだと考えています。再度血栓に関する採血を行うと、予想した通り、僅かに異常が見られたため、今回の3個の胚盤胞移植では、サポートとして毎日ヘパリンを投与することにしました。今日は妊娠14週3日目、心拍を再度確認しSay Good-bye、ついに産科へ転院となりました。次回お会いするのは来年の望年会(当院の卒業式)でしょう。
45歳 「葉2」さん
「葉2」さんは当院での初診前、他院で3回の採卵手術、そして2回の新鮮胚移植と3回の凍結胚移植を行った治療歴がありました。残念なのは移植した胚は、全て3日目まで培養した初期胚だったため、原因を突き止めるのが非常に難しいことでした。初診時にはすでに44歳でしたが、卵子提供は受け入れられず、自己卵子での治療を希望されたため、4個の胚盤胞(生検には適していない)を収集し、4度目の移植へ臨みました。ERA検査も実施済みでしたが、結果はまたもや失敗に。
卵子提供へ切り替え、5回目の挑戦!ERA検査も行い、染色体正常胚を1つ移植しましたが、それでも妊娠には至りませんでした。他に隠れた原因がまだあるのでしょうか。
血栓や免疫に関する検査を行うと、Nephlomety IgGの数値に異常が見られました。6回目の移植は前回同様の治療に加え、移植3日前には免疫グロブリン(IVIG)、移植当日からサポートとして1日1本ヘパリン注射の投与を行いました。現在順調に11週目と1日目を迎えることができ、本当に嬉しく思っています。
44歳「葉3」さん
「葉3」さんは当院での初診前、3回の流産という辛い経験をされたため、一般的な体外受精での治療ではなく、当院での最高峰の治療プラン「IVF 3.0+(PGT-A/PGS)」を強く希望されました。1回目、1個の胚移植で順調に妊娠し、8週目には出血もありましたが、心拍は正常でした。黄体ホルモン注射剤の投与や止血剤も服用していましたし、採血結果、血栓の数値も問題ありませんでした。2週間後の再検査でも胎児は成長を続けていましたが、その翌週、突然の心拍停止。まさに青天の霹靂、ショックの大きさは計り知れません。10週を過ぎれば安心できるのではなかったのでしょうか。しかも今回はIVF3.0+による移植を行ったのです。
疑り深い私は、妊娠後に出血があったことから、血栓に原因があるのではないかと考えました。そこで移植方法は前回と全く同様に行い、血栓に関する採血を2項目へ増やして観察することにしました。すると正式妊娠判定日ではいずれも正常で、心拍確認まで出血もなかったのですが、再度血栓数値を確認すると、1項目で明らかな異常が判明したため、直ちにヘパリン注射を2日に1本から毎日へと増量することにしました。現在妊娠11週目と4日、おめでとうございます!隠れた原因が判明し、ずっと胸にあった辛い気持ちを解き放つことができました。
当院にいらっしゃる方こそが先生
「葉1」さんから学んだ2つのこと
- 1:ERA検査をするべきか、などと迷わない
- 2:妊娠中の出血の際、黄体ホルモン注射剤の投与をするだけではなく、血栓が原因の可能性を疑う
「葉2」さんから学んだこと
- 1:治療費に苦しむべきではない。43歳後は卵子提供が近道
- 2:生殖専門医は免疫医師に対し「No」と言わず、少数ではあるが免疫攻撃により胎児が攻撃され、着床不全となるという事実があることを受け入れるべき
「葉3」さんから学んだこと
- 1:血栓の採血項目は一つでは足りない。同時に2項目を検査するべき
- 2:今日は明日とは異なる!正式妊娠判定日での血栓数値は正常で、3週間後に心拍が確認できたにもかかわらず、再検査した血栓数値はなぜ異常を示したのか?人の身体は常に変化しているため、今日は健康でも明日病気にならないとは限らない。
上記の3名は、なぜ当院を卒業するまで、これほど大変な治療を歩み、沢山の費用を費やすことになったのでしょう。
「どこで治療するのが一番安いですか?」という問いに、私は答えることができません。なぜなら他に安いところは必ずあるからです。
質問を変えてみましょう。健康な赤ちゃんを迎えるために、コストパフォーマンスが高く傷つかない方法は?私の答えはIVF3.0+(PGT-A/PGS + ERA)です。その理由は1つの胚移植による妊娠率は80%に上り、個人に合わせたオーダーメイドの治療法のため、それぞれの治療の過程でデータを収集することで、万一移植の結果が理想的とならなかった場合も、得た情報から原因を突き止めることができるからです。従来の体外受精のように「ご自身の身体で実験」するものとは異なります。
当院は困難な道を突き進みます!迎えた今年20年目、「反復着床不全」の特別診察を設けました。これまで様々なクリニックで治療を行ってきた方、ぜひ一緒に挑戦しましょう。最も大切なことは、「正しい医療」を信じることです。「原因は必ずあります!」、「正しい道での努力は報われる」と信じてください。
コメント
1.「葉1」さんは他院で2回染色体正常胚を移植したにも関わらず、妊娠には至りませんでした
移植 | 1回目 | 2回目 | 3回目 |
---|---|---|---|
胚盤胞 | 2個 | 2個 | 3個 |
PGT-A/PGS | 培養5日目/5BB/染色体正常 培養6日目/5BC/未検査 |
培養5日目/5AB/染色体正常 培養5日目/5BC/未検査 |
培養5日目/5BB/モザイク胚 培養6日目/5BC/未検査 培養6日目/5BC/未検査 |
ERA | 実施せず | 144時間 | 144時間 |
結果 | 陰性 | 妊娠8週目に心拍停止 | 2020年7月6日 男の子/2080g |
疑問 | 〇 1回目:1個の染色体正常胚移植の妊娠率は60~70%、2個移植でも成功しないのはなぜ? 〇 2回目:正しいタイミングで移植すると成功、しかしなぜ出血が起こり心拍停止となったのか、その原因とは 〇 3回目:一番の良好胚ではない胚盤胞でどう成功させるか 〇 行った正しいこと:血栓に異常が見られたため、ヘパリンでそれをコントロール |
2.「葉2」さんは初診までに3度移植し、妊娠にはいたりませんでした:
移植 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 |
---|---|---|---|---|---|---|
卵子 | 自己卵子 | 自己卵子 | 自己卵子 | 自己卵子 | 卵子提供 | 卵子提供 |
胚盤胞 | 初期胚 | 初期胚 | 初期胚 | 胚盤胞 | 胚盤胞 | 胚盤胞 |
個数 | 不明 | 不明 | 4個 | 4個 | 1個 培養5日目/5BB/染色体正常 |
1個 培養5日目/5BB/染色体正常 |
ERA | 実施せず | 実施せず | 実施せず | 119時間 | 119時間 | 119時間 |
結果 | 陰性 | 陰性 | 陰性 | 化学流産 | 化学流産 | 2020年9月2日 女の子/2540g |
困難・疑問 | 〇 3回目まで:従来の体外受精による移植のため、精度に欠け、失敗の原因を分析することができない 〇 4回目:45歳での自己卵子による治療のため、染色体異常により着床できなかったと推測 〇 5回目:IVF3.0+による染色体正常胚移植の妊娠率は60~70%。正確なタイミングでの移植にもかかわらず、なぜ失敗したのか、原因は必ずある 〇 6回目:5回目同様、培養6日目の染色体正常胚を移植し、無事出産 〇 行った正しいこと:自己免疫の数値に異常がみられたため、移植3日前にIVIG(免疫グロブリン)を投与 |
3・「葉3」さんは初診までに流産3回の経緯がありました。当院では卵子提供を受けることに
移植 | 1回目 | 2回目 |
---|---|---|
胚盤胞 | 1個 | 1個 |
PGT-A/PGS | 培養5日目/5BB/染色体正常 | 培養5日目/5BB/染色体正常 |
ERA | 120時間 | 120時間 |
結果 | 妊娠11週目に心拍停止 | 2020年9月2日 女の子/2500g |
疑問・困惑 | 〇 1回目:IVF3.0+の妊娠率は80%。なせ妊娠11週目で心拍停止となったのか 〇 2回目:同様にIVF3.0+による移植を実施。どう無事出産をむかえることができたのか 〇 行った正しこと:このケースでもっとも特殊だったのは、移植前と正式妊娠判定日に正常だった血栓数値が、心拍確認後2週目で異常となったこと。ただちにヘパリンの追加投与を行った |
4・反復着床不全に子宮の先天性異常、内膜が5㎜以下などのケースは含まれていません。このような状況に該当する方は、代理出産や養子を検討します。
*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。