原始精子のDNA断片率が高く、治療後も依然改善が見られない場合、睾丸からの精子採取を視野に入れます。というのも精子のDNA断片が比較的低いためです。ブラジル研究チームは現在までの関連研究の統計を出しており、この方法で実証できることを証明したいと考えています。
体外授精技術の中で顕微授精は高倍率顕微鏡の下、活動力と形態の良い精子を選び、卵子内に注入することで人工授精させます。しかし活動力と形態だけでは精子のDNA断片(Sperm DNA Fragmentation)を知ることはできません。近年の研究では、精子の質をみるためにDNA断片そのものにフォーカスをあてるようになりました。精子のDNA断片率が高いほど受精率だけでなく、後に移植した胚盤胞の妊娠率と流産率に大きな影響を及ぼす、と多くの研究が示しています。
2019年の欧州生殖医学年会にて、ブラジルのある研究チームが原始精子のDNA断片率が高く、かつ治療後も改善が見られない場合、睾丸からの精子採取を検討すると伝えています。精子が睾丸で発育し、睾丸上体へ移動・成熟する前は酸化ストレスが最小限の状態であるため、睾丸内の精子DNA断片率は比較的低くなっています。この研究チームは現在までの関連研究の統計をとっており、この方法で実証できることを証明したいと考えています。
まず、ブラジル研究チームは70編もの研究の収集及び統計を行いました。中には、9363個の卵子を自然受精させたものと、6260個の卵子を顕微授精させたものが、精子DNA断片で受精率に影響を受けていないか統計したものを含んでいます。統計結果は下の図を参照下さい。自然受精(IVF)または顕微授精(ICSI)問わず精子DNA断片率は高くなっています。受精率にとってリスクある影響と言えます。また、4種の異なる精子DNAの検査方法(TUNEL,SCD,Comet,SCSA)でも同様の結果が得られました。
続いて、ブラジルの研究チームは睾丸から採取した精子のDNA断片が、自分で排出した精子よりも低いかどうかを確認したいと考えていました。精液分析の結果から乏精子症(Oligozoospermia)と判断された172名のデータを収集し研究、そして彼らに対し抗酸化剤で治療を数か月続けましたが結果は改善されず、断片率は高い数値(DFI>30%)を保ったままでした。
結果は下の図に表示。自分で排出した精子DNA断片率は比較的高く(青色)、手術で採精した場合は比較的低く(緑色)なっています。
さらに人工授精療法を続けた研究では上の図が示すように、睾丸から採取した精子と自分で排出した精子を顕微授精させたところ、胚数、三日目の良好胚、移植個数と妊娠率にはどれも大差は見られませんでした。しかし、流産率に関しては、睾丸から採取した精子で受精後移植、その後の流産率は自分で排出したものと比べて低くなっています(10% v.s 34.3%)。出生率に関しても、睾丸から採精した方が自分で排出したのと比べて高くなっています(46.7% v.s 26.4%)。統計的に差が認められます。
本研究と比べてみると、同一案件で、手術採精と自分で排出した精子のDNA断片率は、自分で排出した(図中E)精子のDNA断片率は高くなっており、手術で採精(図中T)のDNA断片率は低くなっています。これはブラジルチームの研究結果と一致します。下の図を参照ください。
2020年4月までに全世界すでに8編におよぶ研究が発表されています。796名のケースと826例の顕微授精の研究結果は、どちらも手術で採精・受精した方が移植後の妊娠率、出産率が自分で排出した精子の結果と比べて平均的に2-3倍高い数値である、と発表しています。
以上の結果から内容をまとめ下記に結論とします。
精子のDNA断片率は確実に人工生殖結果に影響を与えることがわかりました。非無精子症の不妊ケースでは、睾丸採精で得た精子のDNA断片は、自分で排出した精子DNA断片より比率が低いです。
自分で排出した精子(精子DNA断片率は高め)のケースは、手術による採精(断片率は低め)で受精かつ移植後の妊娠率が改善されます。
注意すべきことは、上述の手術での採精方法は確かに高断片率のお客様には人工生殖結果の改善ができ完璧な精子DNAを得ることができるが、手術は麻酔を要し、リスクもあります。そして、合併症を引き起こす可能性も存在します。なにより、生きて産まれてきた赤ちゃんの健康状態も今後研究し統計・確認していく必要があります。よって、医師とよく相談し状況を注意深く評価してから手術での採精を行った方が妥当だと思います。
ブラジル研究チームの結論から、どのようなケースが手術採精が適切で、体外受精の改善に繋がるのでしょうか。まず、精子のDNA断片の程度を確認する必要があります。断片率が高いことが確認された場合は、数値が高い原因を突き止め、症状に合った薬を処方し治療や安静で改善できるか観察します。もし断片率の改善に繋がらなかった場合、手術採精でDNA断片率の低い精子を採取し体外受精の臨床結果の改善を勧めます。
今まで手術採精の目的は主に無精子症の患者を助けるために使われ、貴重な精子を採取し、体外受精を行って患者の代わりに全力を尽くします。現在ブラジル研究チームは別の用途を発見しました。精子DNA断片が多い患者の替わりに体外受精の結果改善をします。今後は精子の活動力と形態が精子品質の優劣を決める基準になることはありません。DNA断片こそが品質を決める基準になります。つまり、胚の発育と移植後の結果を握るキーパーソンなのです。精子の品質標準を更に高くするその目的はケースの予後の改善することです。一つでも多くの胚が利用できるようになる、つまり流産率を下げることになります。子どもが授からず長い間苦労している患者に希望を与えます。
Eric
採精手術は最初無精子症の方に使われていました。無精子症の原因は様々で、いくつかの要素が重なって引き起こされる結果と言われています。先天遺伝子や染色体異常など、または後天性要因の可能性もあります。例えば、おたふく風邪、停留精巣、抗がん化学療法によって引き起こされる無精子症。様々な異なる種類の無精子症患者がいますが、精子形成機能があるだけでも採精手術が行えます。採精し顕微授精と合わせることで健康な赤ちゃんを家に連れて帰ることができます。
現在の採精手術は多様であり、学術界でも採精手術での精子と自己排出精子の品質の比較を行った文献が多く発表されています。中でも手術採精での精子は自己排出精子と比べて酸化傷害を受ける比率が低くなっていると指摘されています。本記事では精子のDNA断片率に重点を置いており、手術採精の精子DNA断片の方が比率が低く、移植後の妊娠率も高くなっていると言っています。精子は存在するが後天要素で精子がDNA断片化していしまい胚盤胞率の低いグループに対してひとつの大きな福音であることでしょう。
精子摘出手術の開発はこれまで非常に洗練されてきましたが、手術後に精子が手に入らない場合でも、精子提供を受ける手段もあります。
コウノトリ生殖医療センターには十分な精子バンクがあり、自信を持って「精子提供で今すぐ子どもを」というご希望にこたえることができます。



