卵子内の紡錘体は人体でいう心臓のようなもの。重要な働きをしているのに外観からは見えない…。
コウノトリは経験に基づき、観察に適した紡錘体の整理をしました。
顕微鏡下で、培養士は全神経を集中させて活動力と形態が揃っているアレ(精子)を見つけ選びます。そして一万分の一で選ばれたこの精子を卵子内の卵質に注入、その際に極体を12時の方向に位置し、卵子の見えない心臓-紡錘体(spindle)を避けます。紡錘体は微小管(Microtubule)、中心体(Centrosome)染色体から成り立っており、細胞分裂の過程できちんと配列されている染色体を両極端に引っ張る作用があります。外国の文献資料によると、紡錘体は極体の真下に位置するとは限らず、約3割の割合で紡錘体が偏移している場合があります。そのため、いつもと同じ手順で作業すると紡錘体を傷つける可能性があり、染色体異常や胚の発育に影響を及ぼします。人体の心臓と同じく、外観からは見ることはできないが、とても重要な役割をしているのです。
2019生殖医学年会で、他院チームは以下の統計結果を発表。
-
2018.09~2019.05
-
31名の自己卵の患者(31の周期)
-
114個のMII熟成卵
-
採卵後4-6時間紡錘体の観察を実施
-
第一極体を中心として左右各45度をAゾーンと定義、それ以外をBゾーンとする
研究チームの発見:
-
採卵後4-6時間紡錘体の観察をし、75%の卵子が順調に観察できた。
かつ、40歳を境に年齢上の違いが見られなかった。 -
大部分(81.4%)の紡錘体は第一極体の下方に位置するが、18.6%の可能性で紡錘体が第一極体の下方に位置しないズレが発生する。
-
40歳未満のグループと40歳以上のグループに分け比較(下の図と表)、Bゾーンに位置する確率が比較的高いことがわかる(27.8% v.s. 16.9%)。
また、収取した45名のお客様の卵子(226個のMII)が顕微注射前に紡錘体の位置確認ができるか、受精と分裂結果に差が出るか比較した。結果上記と同様統計結果に差は認められなかった。しかし40歳以上のグループの受精率は高い傾向にあり、3日目の分裂率が100%に達した。
コウノトリでは2017年に紡錘体の識別造影設備を導入しました。
卵子の成熟度合の確認に用いります。
第一極体を放出した直後の卵子は、さらに2-3時間経て最も受精能力のある第二次減数分裂の中期(Metaphase II)になります。
紡錘体の観測によって、外観からは成熟しているように見えるが(極体を放出済)、
未だ第一次減数分裂後期(telophase)または第二次減数分裂前期(prophase)など未成熟状態の卵子を識別し、培養士が的確な受精タイミングを掴むことができます。
あるいは、凍結卵子のグループにおいて、凍結過程の脱水萎縮が紡錘体の破傷を引き起こす可能性があるため、観測でtelophase段階(紡錘体が今だ卵質と第一極体の中間に位置)をみつけ、
凍結を避けることができます。
受精時紡錘体の位置決めにも使われます。
卵巣機能衰退または高齢のお客様で卵子数が少ない、精子状況が理想的ではない方には通常顕微注射方式が使われるためです。
よって偏光顕微鏡の観測で顕微受精時の紡錘体破傷を防ぎます。
その他、文献内や上記研究チームの統計にも挙げられてる結果を見ると、高齢患者は確実に紡錘体偏移の現象が高くなっています(一般な未観測時の入針範囲内に位置する)。
そのため偏光顕微鏡を使用し紡錘体の位置を確認、そして毎周期貴重な卵子が無駄にならないようにします。
また、解凍卵子を使って受精した際、凍結と解凍(萎縮、膨張)の過程で影響を受け、しばしば紡錘体の位置がずれることがわかりました。
この技術のおかげで、培養士たちは操作時により的確な受精タイミングと入針位置を把握することができます。お客様一人ひとりの卵子がその価値を最大に発揮できるよう願っています。
Daisy
-
紡錘体の重要性は近年の生殖医学年会でも多く議論されています。
しかし大部分のチームの研究は紡錘体の位置に重点を置いており、顕微注射の際紡錘体を破壊してしまうのではという心配ばかりしています。
よって紡錘体観測は胚のその後の発育に影響するかどうか問われず、ほとんどの答えは影響されない、というものです。
紡錘体観測によって偏移が認められる比率は約3割のみで、かつ卵子は円形なため、紡錘体を射る確率は更に小さくなるからです。
-
ではなぜコウノトリは他とは違う発見ができたのでしょうか。
紡錘体は観測によって卵子の卵質(内側)と外観(外側)がすべて成熟したか確認ができます。
そして最大の理由はコウノトリは生命を尊重し、お客様を大切に扱っているからです。
ほとんどの生殖センターは採卵後成熟した卵子を受精させ、未成熟の卵子は破棄します。
しかしコウノトリの場合、未成熟の卵子は引き続き培養させ、採卵当日の午後4時までに成熟すれば使用しています。
なぜ、他院ではこのようなことをしないのでしょうか。それは後から成熟した卵子(紡錘体はtelophaseの状況が多い)は効率が低く、良い胚盤胞にならないからです。
コウノトリはお客様がより多くの胚を得るために懸命に取り組むという精神でいます。
よってこれら卵子の紡錘体観察で貴重な経験を得ることができました。(下図)
-
卵子は未成熟卵子から成熟卵子(第二極体放出)に変化した時、紡錘体はtelophase状態で停留しています。
2-4時間ほどの時間を経て、紡錘体はMetaphase IIに変化します。この時が受精のベストタイミングです。
※Metaphase IIはTelophaseと比べて高い受精率と胚盤胞率にある。
-
紡錘体観測は妊娠率を大躍進させることはできません。
しかし少しでも多くの卵子が胚盤胞まで育ち、健康な赤ちゃんの出生に一歩でも近づけるよう努めています。
コウノトリの経験に基づいて観測に適している対象者は下記の通りです:
-
高齢
-
卵子成熟率≺60%
-
解凍卵子
-
毎周期凍結卵子数≦5個



