早く助けて!会いたい(3)  着床期救命理論(IBR)

数十年にわたり、私を含めた生殖医療の専門家たちは口をそろえて「人工生殖には100点(成功)か0点(失敗)の2つしかない」」と言ってきましたが、「着床期救命理論」が生まれて以来、「IVF 3.0+」では「0点(失敗)」とされてしまう状況を覆すことが可能になりました。 妊娠判定日の定義を改めたことで、「100点(成功)」と「0点(失敗)」の距離をぐっと近づけることができました。

2022-11-30

早く助けて!会いたい(3)  着床期救命理論(IBR)

「彼女」が私たちの胚盤胞を救い出してくれたの!…彼女って誰?

うまくいかなかったら、費用がかさむ。再挑戦はさらに…。移植後は14日目の妊娠判定を待っていればいい?

「結果を待つ間」に何かできることはないのでしょうか。私は、亡くなってしまった人を蘇らせることはできなくとも、「瀕死状態から救い出す」ことは可能ではないかと思っています。救命医療の完璧な流れでは、急患はまず救急科に運び込まれ、一命を取り留める。その後は集中治療室(ICU)にて治療を受け、病状が安定したのちに一般病棟に移っていくことでしょう。

なぜ、体外受精が行われるようになってから40数年ものあいだ、「着床期救命理論」と「生殖医療ICU」という考えがなかったのでしょうか。
どのようなママに「着床期救命理論」が適用できるのでしょうか?
コウノトリでは2008年に台湾で初となるIVF3.0(第三代体外受精)を始めました。当時使用していたaCGHという技術では、モザイク型の胚盤胞(流産率が高いとされる)を検出することはできず、その上、検体をアメリカまで送る必要がありました。2015年からは院内に次世代スクリーニングPGT-A/PGSの検査室を構え、2016年にはERA検査(着床の窓を調べる検査)を導入し、「IVF3.0 +」が誕生しました。これにより正確な移植が可能となり、妊娠率は約80%に上りましたが、その内10-15%の方は「浅い着床(化学妊娠)」という結果でした。この10-15%の人たちの身にはいったい何が起こっていたのでしょうか。

そう!「着床期救命理論」はIVF3.0+で「浅い着床」となった方にこそ適用されるべき
なのです。2021年、勇気あるママ・趙小僑さんが「IVF3.0」により移植を行い、不運にも妊娠16週に胎児の心拍が停止してしまったことをきっかけに、私たちはこうしたことが二度と起きないよう、2022年から「着床期の瀕死状態の胚盤胞」を助け出すことに挑戦し始めました。これまでの成果のうち、最近の3つの成功例と1つのケースについて、ご紹介します。一緒に「浅い着床」の秘密を探っていきましょう!

ケース1 

仮説1: 一般的な妊娠判定

移植後 7日目 14日目
β-HCG X 0.1より高い程度



35才に満たない彼女はERA検査(108時間)を行い、正しい時間に移植を行いました。仮に移植から7日目に妊娠判定を行わず、14日目の検査で原因不明の化学妊娠と判定された時、彼女は涙にくれながら、答えの見つからない化学妊娠に悩むでしょう。化学妊娠とは、検査薬にはうっすらと二本線が現れるがBHCGの数値が十分ではない状態を指し、採血での妊娠判定数値は0.1より少し高い程度であることが多く、「浅い着床」とも呼ばれます。
数値だけで結果を判定するのであれば、「薬の服用をやめてください、次また頑張りましょう!」と言われる結果です。

仮説2: 2021年のコウノトリだったら?

移植後 7日目 14日目
β-HCG 96.35 0.1より高い程度
メモ 嬉しい 辛い


2回の移植がうまくいかなかった原因がわからず、今回は一週間早めに妊娠判定を行いました。7日目の数値は理想的だったので彼女とともに喜び、一週間後、正式な妊娠判定に来てもらうことにしました。しかしその結果は「悲しい」ものとなりました。なぜなら、7日目の判定の後もうまくいくと思い込み、「何もサポートを行わない」まま1週間を過ごしてしまったからです。

実際の状況: 2022年のコウノトリ

移植後 7日目 9日目 11日目
β-HCG 96.35 180.69 146.94
メモ 1日だけ喜ぶ 緩やかに上昇 焦り


2日ごとに妊娠指数のフォローを行ったところ、9日目に上昇速度が低下、11日目には数値が下がっていることがわかり、助け出せるのかという焦りばかりが募ります。あいにく彼女は当日来院することができず、その翌日に「バイオ薬品」を使用することにしました。薬剤を使用する前に行った検査では、妊娠指数がさらに下がっていることがわかり、流産しかけているともいえる状況でした。果たして、救い出すことができるのでしょうか?


実際の状況:  着床期救命を実施

移植後 7日目 9日目 11日目 12日目
β-HCG 96.35 180.69 146.94 105.5
メモ   緩やかに上昇 下降 救出する?


彼女はこの胚盤胞を助け出すことを決意し、まず「バイオ薬品」と「抗血栓薬」を投与、翌日から経過を観察しました。すると、数値がゆるやかな上昇を見せたのです。これは、胚盤胞がまだ生きていることを示しますが、本当の挑戦はここからです。三週間後に心拍の確認ができて、ようやく「救い出すことに成功した!」といえるのです。

実際の状況:  生殖ICU

移植後 7日目 9日目 11日目 12日目 13日目 14日目 16日目 18日目 20日目
β-HCG 96.35 180.69 146.94 105.5 132.5 141.4 407.6 721.29 1587
メモ   上昇 下降 救命 緩やか 上昇 嬉しい さらに嬉しい 大きな期待



20日目を迎えるまで、当院一同、心拍確認ができるのを待ち望み、毎週超音波検査を行いました。胎嚢が確認できたのは、妊娠判定から一週間後のこと。二週間目には、卵黄嚢と胚芽が確認でき、三週目には心拍確認ができたのです。しかしながら、通常160~180回/分が理想とされる心拍数は少し低めの数値を示していました。心拍数が135回/分を下回ると、命の危険があります。この大切な時期に、どのようなサポートをすべきでしょうか?

実際の状況:  ふたたび救命!

正式妊娠判定後 7日目 14日目 21日目
胎嚢 0.6~0.7cm X X
胎芽 X 0.5cm 1.1cm
心拍数/分 X 微弱 143回

ここで免疫グロブリン、IVIGの登場です!このタイミングではIVIGが最も効果が高い薬剤と考えられます。彼女の体重であれば、15本の投与を行うことで効果が望めます。22日目の朝、まず8本を投与しました。翌日、残りの7本の投与前に心拍数の確認を行ったところ、159回/分まで上昇しており、救い出すことに成功したのでした。


実際の状況: 瀕死からの復活

正式妊娠判定後 21日目 22日目/IVIG投与前 22日目/IVIG投与後 23日目
心拍数/分 143回 142回 145回 159回


本ケースから学んだこと

  1. 正しい時間に正常な胚盤胞を移植したにもかかわらず、成功に至らない場合、免疫反応や血栓が原因であると考えられる。
     
  2. 移植前にあらかじめ「バイオ薬品」と「抗血栓薬」を使用することで、着床環境が整い、妊娠のサポートにつながる。
     
  3. 移植前に薬剤を使用しない場合、移植後7日目に妊娠判定を行い、1~2日ごとに経過観察を行う。もし、bHCGの上昇速度に遅れがみられる場合は、「24~72時間」以内に胚盤胞を瀕死の状態から救い出す必要がある。こうした状況の多くは血栓もしくは腫瘍壊死因子によるものであると考えられる。
     
  4. 正式な妊娠判定日から3週間後、心拍数が低い場合、IVIGを使用することで効果がみられる。しかし同時に「エストロゲンとプロゲステロン」値の低下に注意する必要があり、1~2週間は「大量のエストロゲンとプロゲステロン」の補充を続けるのが望ましい。
     
  5. 彼女は3回の移植全てを他院で行い、当院では3回目の移植後7日目から救命にあたった。
     

ケース2


49才の彼女は自身の卵子を使い、6回の移植を行い、一度は原因不明の枯死卵となりました。その後、卵子提供を受けるため当院へ来院されました。
一度目の移植の結果も枯死卵でした。深夜に大量の出血があり、流産処置や染色体検査を行う間もなく、胎嚢は体外へ排出されてしまいました。2回目の移植では、6日目の妊娠判定での妊娠指数は17.19、7日目は18.69でした。上昇スピードの遅さは子宮内の胚の成長が望ましくなく助けを必要としていることを表します。彼女の免疫に関する項目はいずれも正常であり、血栓の値は移植当日は0.58と少し高めではありましたが、毎日抗血栓注射を打つことで、基準値である0.55以下にコントロールできていました。では、いったいどのようにサポートすれば良いのでしょうか。

 


 

実際の状況1生殖ICU

  移植当日 6日目 7日目
β-HCG   17.19 18.69
Dダイマー 0.58 0.5  
メモ     救出する?


上記の表をみると、Ddの数値が十分にコントロールできていないことがわかります。子宮内の「血行不良」が着床の妨げとなってしまったのでしょうか? ヘパリン注射へ変更し使用量を増やすことで、この状況を覆すことができるのでしょうか? 移植後7日目から、痛みが強く痣になりやすいヘパリン注射を毎日打つことにしました。
 

実際の状況 2:着床期救命

) 移植当日 6日目 7日目 10日目 14日目
β-HCG   17.19 18.69 125.7 1041
Dダイマー 0.58 0.5   0.36 0.37
ヘパリン注射     使用量を増やす 維持 維持


移植後14日目の妊娠指数が1,041となったことから、7日目に抗血栓薬の調整を行ったことは正しかったといえるでしょう。もしあの時に何も行わなければ、14日目の妊娠指数は0.1以下となり、その原因に頭を悩ませていたはずです。
私たちの挑戦は心拍確認まで続きます。この心拍確認がうまくいってこそ、「救い出せた」といえるのです。

実際の状況 3:瀕死からの復活

正式妊娠判定後 7日目 14日目 21日目
胎嚢 1.0cm 1.7cm X
胎芽 X 0.6cm 1.2cm
心拍数/分 X 120回 163回


本ケースから学んだこと
 

  1. 人間の体質には個人差があり、Dダイマー(血栓)の「参考値」も単純に全ての方に当てはめるべきではない。ケース1の腫瘍壊死因子のように、参考値より「やや高め」であっても胚盤胞にとっては命取りとなる場合もある。
     
  2. ハイレベル免疫機能検査の各項目が正常であっても、原因不明の流産を繰り返す場合、子宮内の「循環」を改善することで、成功率をあげることができる。
     
  3. 抗血栓薬使用時の出血は、必ずしも投与量の超過によるものではない。彼女の「一回目の移植」のように、投与量が少なすぎるゆえに出血を起こすこともある。
     

ケース3


30才の彼女は、4年間にわたり妊活に励むもうまくいかず、原因もわからないままでした。当院で「IVF3.0+」を行ったうち、2回の移植では、抗血栓薬剤を2日に1回使用したもののうまくいきませんでした。その後、免疫専門医のサポートを受け「IVIG」や「ヒュミラ」を使用し、朝晩のヘパリン注射も行いました。しかしながら、結果はまたしても「浅い着床」。第三段階の免疫薬剤を使用したにもかかわらず、なぜうまくいかないのでしょうか?おそらく専門家たちは「IVIG 」は効果がなかったというでしょう。

実際の対応 1:移植時の状況

移植回数 1回目 2回目 3回目
正常胚 1個 1個 1個
ERA検査結果 99時間 99時間 99時間
免疫調整剤 抗血栓注射剤 抗血栓注射剤 IVIG+ヒュミラ+ヘパリン注射
結果 浅い着床 着床せず 浅い着床


幸いにも、移植時に「三回の採血検査」を行っていたことで、彼女の場合は「ヒュミラ」の効果が思わしくないことがわかったのです。そのほかの免疫項目は異常値を示すものはなく、次回は異なる薬剤を使用することにしました。もしかしたら、高価なIVIGを使用する必要さえもなくなるかもしれません。また、彼女には11個ものBCグレードの移植可能な胚盤胞があったことも幸いしました。

実際の対応2:生殖ICU

4回目の移植 5日目 7日目 9日目 11日目 13日目 16日目
β-HCG 8.8 39.28 120 312.7 716.1 2062
Dダイマー 0.4 0.44 0.35 0.3 0.27 0.32
アリクストラ ヘパリン注射へ変更 維持 使用量を増やす 維持 維持 維持

4回目の移植では、PGS検査を行っていない「BCグレード」の胚盤胞を移植しました。「BCグレード」はうまくいかなかった時の格好の理由とされ、「インターネット上」では悪評高い存在です。この表からわかるように、血栓の数値は常に正常(<0.55)でしたが、移植後5日目に妊娠指数が8.8と「危険」であったことから、アリクストラを「ヘパリン注射」へ変更したところ、2日後にはその効果がみられ、妊娠指数は39.28へ上昇しました。9日目に使用量を増やすと、妊娠指数の上昇速度は更に早まり、「正式な妊娠判定」から3週間後には力強い心拍が確認されたのでした。


実際の対応3:瀕死からの復活

正式妊娠判定後 7日目 14日目 21日目
胎嚢 0.9cm X X
胎芽 X 1.0cm 1.8cm
心拍数/分 X 138回 174回


本ケースから学んだこと

  1. 表面の情報だけを信じない:インターネット上には「真実とは異なる情報」があふれています。多くの人がそれらに惑わされたり、真実だと思い込んでしまうことがあります。移植がうまくいかなかったとき、自分自身の免疫の状態や血栓の問題に目を向けることなく、また「きちんと診断を受ける前」に、「胚盤胞に原因がある」と決めつけたりします。このケースや、47歳にして自身の卵子による体外受精を成功させ、双子を出産した顔さんのケースはいずれもインターネット等で「見下されてばかり」のBCグレードの胚盤胞でした。3回の移植がうまくいかなかった本当の原因は、血栓と腫瘍壊死因子でした。
     
  2. 免疫専門医師にも正確な診断は難しい場合がある 例:「三回目の移植」。
     
  3. 血栓の数値を表すDダイマーが「十分に下がっていない」と、悪さをする場合がある。
     
  4. すべての薬には「稀に」効果が見られない人も存在するが、試してみなければわからない。彼女は「三回目の移植」により薬との相性がわかり、「四回目の移植」で使用する薬を変更するにいたった。
     
  5. 私たちは、教科書に書かれたことだけではなく、「見えない部分を見よう」とし、「当院にいらっしゃる方たちこそが先生」という考えを大切に、常に前進できるよう努力しています。 
     

ケース4


32歳の彼女は、5年間妊活に励むも、一向に成功しませんでした。「一度目の移植」では、ERA検査で着床の窓を調べ(143時間)、PGS 検査未実施の胚盤胞1個を移植したものの、うまくいきませんでした。この時には、抗血栓の注射剤のみを使用していました。「プラケニル」を3ヶ月間服用した後の「二回目の移植」では、PGS検査未実施の胚盤胞2個を移植し、若いにも関わらず5年もの間妊娠することができなかった経緯から、移植後7日目に「生殖医療ICU」で妊娠指数を観察を始めました。最初の2週間の上昇速度は問題なかったものの、16~18日目にして速度が低下、19日目には瀕死の状態となりました。

実際の対応1:生殖ICU

2回目の移植 7日目 9日目 14日目 16日目 18日目 19日目
β-HCG 34.29 78.49 598 1408 2579 2871
メモ         上昇できず 瀕死
NK細胞 22.9   30.3   救出する?  



「ハイレベル免疫機能検査」の結果が確認できるまでには、「約1~2週間」かかります。この期間中も適切なタイミングでサポートを行わなければ、胚盤胞は助かりません。
彼女の場合は、18日目にようやく14日目の検査結果が確認でき、NK細胞が犯人だということがわかりました。悪評高いAC・BCグレードの胚盤胞を移植した今回の移植で、また手遅れかもしれないこのタイミングで、NK細胞に効果のある高額な「IVIG」を用いた救命を行うか否かは難しい判断でした。彼女の年齢から、2つの胚盤胞のうち1つは正常な胚盤胞であると推測されるため、救命に挑戦する価値はあると考えられます。しかし高額な薬剤を使用する必要があるため、最終的には彼女自身が決断することになります。

実際の対応 2:着床期救命

2回目の移植 14日目 16日目 18日目 19日目 21日目
β-HCG 598 1408 2579 2871 5171
NK細胞 30.3        
IVIG     8本    
メモ     力が足りず 維持 上昇

助かる見込みがるか分からなかったこともあり、まずIVIGを8本投与することを勧めました。その後、妊娠指数の経過観察を行い、上昇がみられたので残り8本を投与。投与翌日(19日目)の数値は横這い、2日後(21日目)には急激な上昇が見られました。しかし23日目に再び上昇がストップしたため、すぐにIVIGを追加で8本投与しました。その翌日には数値が上昇していることが分かり、3日後に更に8本を追加で投与しました。
 

実際の対応3:再度の救命

2回目の移植 23日目 24日目 26日目 31日目
β-HCG 6791 8419 X X
NK細胞   24 31.1 29.2
IVIG 8本   8本  
メモ 力が足りず      

正式な妊娠判定から8日目に、超音波検査を行い胎嚢の発育状況を確認しました。胚芽と心拍は21日目に確認できたものの、心拍は少し低い数値を示していました。その後28日目まで観察を続け、発育速度・心拍ともに正常値が確認できてこそ、助け出すことに成功したといえるのです。


実際の対応4瀕死からの復活

正式妊娠判定後 8日目 16日目 21日目 28日目
胎嚢 0.9cm 1.54cm X X
胎芽 X X 0.99cm 1.85cm
心拍数/分 X 123回 148回 177回

彼女は妊娠11週目まで良い状態をキープしていました。そして「12週目」に入り、コウノトリからの卒業を目前に控えたとある週末、カキ氷を食べた彼女を「10数回にもおよぶ嘔吐と発熱」が襲いました。そして2日後の妊婦検診で胎児の心拍が停止していることが分かったのです。流産処置の際に、子宮頚部の細菌培養と絨毛検査を行ったところ、彼女の子宮頚部から「黄色ブドウ球菌」が検出され、染色体検査の結果は正常(男児・46XY)でした。食中毒との関連については不明確な部分もありますが、子宮頚部の炎症が起きていたことは確かであり、大変残念な結果となりました。

本ケースから学んだこと
 

  1. 移植後「1~2週目」に問題がなかったからといって、安心するのはまだ早い。「正式な妊娠判定」から3週目に「心拍確認」ができるまでは、リスクが潜んでいます。
     
  2. IVIGは移植2~3日前の投与を標準とし、緊急使用を行う場合は「IVIGを2日連続で投与」することで、最も高い効果が見込める。
     
  3. 卒業(妊娠12週目)するまでは、生活面でも注意が必要
     

結論


数十年にわたり、私を含めた生殖医療の専門家たちは口をそろえて「人工生殖には100点(成功)か0点(失敗)の2つしかない」」と言ってきましたが、「着床期救命理論」が生まれて以来、「IVF 3.0+」では「0点(失敗)」とされてしまう状況を覆すことが可能になりました。
妊娠判定日の定義を改めたことで、「100点(成功)」と「0点(失敗)」の距離をぐっと近づけることができました。

「助ける」、「助けない」は専門家であるかどうかは関係ありません。チーム全体が心から「感動を創り出す」ことを意識し、貴重な胚盤胞が子宮内ですくすくと育ち、ママと出会えることを願う。こうした「命」への向き合い方によるものであるでしょう。


コメント 賴興華医師

1.IVF3.0+において、「着床期救命理論(IBR:Implanted-Blastocyst Rescue)」はどのような場合に適用できるのでしょうか。

 

1.1 移植前、バイオ薬品を使用しておらず、移植後7~11日目の妊娠指数(BHCG)の上昇速度が理想的でない場合、速やかに「バイオ薬品」と「抗血栓薬」の投与を行う。
 
1.2 移植前に「バイオ薬品A」を投与し、移植後7~11日後の妊娠指数(BHCG)の上昇速度が理想的でない場合、「バイオ薬品B」に変更する。理由:異なる製薬会社のバイオ薬品には、効果が十分に得られない人がそれぞれ20~30%存在する。
 
1.3 移植当日から「抗血栓薬」の投与を始め、7~11日後のBHCGの上昇速度が理想的でない場合、「ヘパリン注射」へ変更し、血栓の数値を「極めて低い状態」にコントロールする。
 

1.4 移植後14日目の正式な妊娠判定から21日後の心拍確認において、心拍が約135回/分もしくはそれを下回り、かつ「NK細胞」が20以上を示す場合、IVIGの「緊急投与」を行う。ここで気を付けるべきは「エストロゲンとプロゲステロン」の急激な低下による流産であるため、エストロゲンとプロゲステロンの補充も同時に行う必要がある。

1.5 移植後B細胞が急上昇した場合、直接的な処置は難しい。ステロイドの内服薬を増量し、経過観察を行いながら12週までを目安に服用を続ける。
 
2. 一般的な白血球数:移植前6,000~9,000、妊娠中1,000〜13,000
もし白血球が急上昇したらどうすべきか?
 

白血球 15,000~18,000 18,000~20,000 20,000以上
コンペソロン/日 6錠 8錠 ステロイド静脈注射療法
IVIG

3. 医学研究会の専門家たちの間や、インターネット上で「PGS検査やERA検査によって妊娠率は上昇するのか?」という議論がなされることがあります。議論の動機はわかりませんが、これらはすでに確立された「遺伝子検査」であり、精密な医療計画の一端を担うものです。移植を成功させるためには、これら検査を行わない理由はないでしょう。
 

4.「 どのように移植を行うか」は「誰が移植を行うか」よりも重要です。うまくいかなかったとき、「移植担当医」を疑うよりも「何がお腹の胚を傷つけたのか」を考える必要があります。それでは、「内膜の薄さ」は疑うことない移植失敗の原因といえるのでしょうか。コウノトリ生殖医療センターでの数多くの症例から、内膜の厚さは決定的な原因ではないと考えています。当院開院以来もっとも薄い内膜に悩んでいた彭さんは、移植当日の内膜の厚さ4.4ミリでしたが、2022年11月6日に無事に出産されました。

5. 当院の免疫ママたちは、妊娠12~14週に当院を卒業していきます。卒業後に「胎児心拍が停止」するケースはごく稀で、現在は1~2例/年(勇気あるママ・趙小僑もその一例)となっています。当院卒業後は元気な赤ちゃんとの対面を安心して期待してほしいと思います。

6. 特記事項:「生殖ICU」と「著床期急救」には、以下の「専門家チーム」が不可欠です。

6.1 経験豊富な「生殖免疫専門医」と「免疫生殖専門医」
6.2 経験豊富な「IVF3.0+」ラボチーム
6.3 精密な「ハイレベル免疫機能検査」を行う外部検査機関
6.4 「即時報告」が可能な血液検査室
6.5 本文はコウノトリ生殖医療センターにおける2008年から2022年の「生殖免疫」に関する臨床経験に基づき記載しました。2022年11月27日時点、「着床期救命理論(Implanted-Blastocyst Rescue)」に関する論文は他に発表されていません。引用の際には、引用元を明記くださいますようお願いいたします。
 

*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。