精子の形態は精子の機能の重要な指標
現代男性の精子は、以前に比べ減数しただけでなく、運動率も減退、また正常な形態の精子の比率も大幅に低下し、妊娠率低下の一因となっています。 仕事のストレス、喫煙、運動不足、汚染物質との接触などが原因とされ、精子製造に影響を及ぼしています。
2021-10-28
精液検査にはどんな項目があるの?
精液検査では精子の濃度、総数、運動率、精子の形態を調べます。多くの男性は運動力や前進力を特に気にされますが、実は精子の形態もとても大事なポイントです。20世紀はじめの研究により、人間の精子は他の哺乳類の精子とは異なり、多様性が高いことが分かりました。つまり同じ人が検査を受けると、その中には以下のような様々な形態の精子が確認できます。
精子の頭の形:
洋ナシ型(Pyriform)、尖っている(Tapered)、
丸い(Round)、不規則型(Amorphous)、
空砲がある(Vacuolated)、
正常な卵型
頸部:
曲がっている(Bent neck)、
左右対称でない(Asymmentrical insertion)
尾部:
太すぎ・細すぎ、折れ曲がっている、
くるくる渦を巻いている(Coiled)、
短すぎる
精子形態の配分は毎回同じような方もいらっしゃいますが、ばらつきがある方、空砲が多い方等もいらっしゃいます。
毎回射精される度、多少形態の配分の違いはあるものの、数量や運動量に比べると、その比率にあまり変化はありません。
精子の形態は受精にどんな影響を与える?
研究により精子の形態は、アクロソーム機能(Acrosome function)と関りがあることが分かりました。アクロソームは精子の頭部先端部分にあり、精子が卵子の殻(Zona pellucida)に触れた時、そこから殻を溶かす酵素を出し卵子の内側に侵入します。そうして卵子と精子が受精するので、アクロソームの働きは自然妊娠するうえで必要不可欠な存在です。
研究によると頭部の形が小さかったり、丸い精子の場合、
アクロソームが占める割合が低く(<30%)、自然妊娠の確率も低くなります。逆に大きすぎたり(Megalo head)、長かったりすると受精率、妊娠率に影響するため、ICSI(顕微授精)での受精が必要になります。なぜなら精子細胞核(Cell nucleus) の形状が長いと、それを覆う核膜(Nucles envelope)の構造も異常が起こりやすくなり、後の子細胞(精子)の染色体異常を引き起こす原因になるからです。
また、自然受精率が高くなる酵素をたくさん出しているのは、正常な形態の精子ということが分かりました。つまり精子の運動力と形態が、良ければ良いほど受精成功に繋がるのです。
精子の形態はどう判断する?
精子の形態の重要性が明らかになった後、その判定も厳しくなってきました。南アフリカのDr.Kruger医師たちは厳しく検査することを提案し(Tygerberg Strict criteria)、厳格な分析のもと、染色した精子を高倍率の顕微鏡で観察し、形状良好な精子の比率を求めました。
現在2010年WHO第5版で示されている、正常な形態の精子は以下の通りです。
“正常な精子は上記の参考値をクリアしている必要があり、またその割合が全体の4%以上を占めた場合に、妊娠率が高くなると考えられています。”
現在精子の形態判断は、特殊な薬液で染色した精子をコンピューターで分析することにより(精子運動解析装置:Computer-Aided Sperm Analusis,CASA)、上記の項目以外にも、頭囲の長さや(Perimeter)、頭部の面積(Head area)、楕円率(Ellipticity)、頸部中軸角度(Midprece angle)など、人では判断できない部分まで客観的に分析することができるようになりました。
当院ではあらゆる方面から精子の形態を計測し、医師が診断をすることができるこのシステムを採用しています。
精子の量が少なく形態も良くない、どうしたらいいですか?
現代男性は仕事のストレスや喫煙、運動不足や化学汚染などが原因により、この数十年精子の正常な形態率、運動率、数量の下降は止まりません。つまり受精させることができる正常精子の減少が、自然妊娠が難しくなっている原因の一つとなっているのです。
もし精子の数が少なく、正常な形態率も低い場合には顕微授精(ICSI)を利用し受精をさせることができます。この技術を用いれば、卵子と同じだけの精子があれば問題ありません。高解析度の顕微鏡(拡大率6000倍IMCI)の下、運動率・形態も良好な精子を一個選びます。
人海戦術ではなく少数精鋭ですべての卵子を受精させましょう!
参考文献:
1.Clinical significance of the low normal sperm morphology value as proposed in the fifth edition of the WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen.
2.status of sperm morphology assessment an evaluation of methodology and clinical value
3. Morphology of spermatozoa bound to the zona pellucida of human oocytes that failed to fertilize in vitro
4. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen
*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。