異常受精(1PN)の胚盤胞、妊娠率はどのくらい?
過去の文献では、新鮮卵子が異常受精(1PN)となった場合の妊娠率は低めであることが指摘されています。では、融解卵子が異常受精(1PN)となった場合の状況はどうでしょうか?
2022-12-08
体外受精を行う中で、正常受精(2PN)の胚盤胞が得られないという状況に遭遇することがあります。
では、異常受精とされる(1PN)の胚盤胞は移植することができるのでしょうか?
移植をした後の結果はどうなるのでしょうか?
1PNの胚盤胞についての研究において、以前は卵子凍結がまだ一般的ではなく、また卵子融解後の受精の時間軸を把握することは比較的難しかったため、多くの研究は新鮮卵子が異常受精(1PN)となった場合を対象としたものでした。
それが最近になり、卵子凍結や卵子収集法という概念が浸透し始め、紡錘体の観察技術も向上したことで、融解卵子を扱う研究が徐々に増え始めています。
新鮮卵子に関する研究により指摘されていること:
- 異常受精(1PN)が胚盤胞まで到達する可能性は、正常受精(2PN)よりも低い
- 異常受精(1PN)の胚盤胞は、染色体異常となる可能性が正常受精(2PN)よりも高い
- 異常受精(1PN)の胚盤胞を移植した場合の妊娠率は、正常受精(2PN)の胚盤胞を移植した場合よりも低い
融解卵子が1PNとなった状況を調べるため、2019年~2020年に渡る571の卵子提供治療周期数の統計をとり、そこから異常受精(1PN)となった割合を基準に、15%以上のグループと、それ以下のグループに分けました。
そしてそれぞれの胚盤胞の培養状況と移植後の結果について統計データをもとに分析を行いました。
また融解後の受精時間を把握し、受精の際に紡錘体を傷つけることのないよう全ての卵子の紡錘体観察を行い、成熟卵子であることが確認できたもののみ、受精を行っていきました。
また対象となる卵子の状態を統一するため、卵子提供を受けたケースを今回の統計の対象としています。
統計の結果
- 異常受精(1PN)率の高いグループが胚盤胞まで発育する割合は比較対象グループと比べ低かった(41.2% VS 63.1%)。
異常受精(1PN)グループは良好な胚盤胞となった割合(培養3日目で6IIグレード以上の胚/2PN数)、良好な胚盤胞率(BCグレード以上/2PN数)や利用率(BCグレード以上の胚盤胞/成熟卵子受精数)これら全てにおいて比較対象グループを下回る結果となった。(下図参照)
- 異常受精(1PN)の染色体異常率も正常受精(2PN)と比較して高くなっている。(43.4% VS 33.7%)。
本文では、当院内の異常受精(1PN)の胚盤胞と正常受精(2PN)の統計データを用い、比較研究を行った。
続けて胚盤胞の着床前スクリーニング検査(PGT-A/PGS)の比較を行ったところ、異常受精(1PN)の胚盤胞における染色体異常率は正常受精(2PN)の場合と比較し、高い数値を示していた。(下図参照)
- 異常受精(1PN)の胚盤胞移植後の結果についても差がみられる。
異常受精(1PN)率の高いグループにおいて、異常受精(1PN)の胚盤胞を移植した場合、その後のB-HCG(+)率、妊娠率、着床率、これら全てにおいて正常受精(2PN)を下回る結果となった。(下図参照)
結論
本文で示した当院内の統計に基づく結果:
融解卵子が異常受精(1PN)となった場合、その後の発育や移植の結果など全てが正常受精(2PN)を下回る結果となり、過去の新鮮卵子を用いた研究と同様の結果となった
これにより、たとえ成熟卵子であることが確約された卵子提供治療で、且つ紡錘体の観察を行い正確な顕微授精を行った結果、異常受精(1PN)となった場合は、その後の発育率や染色体異常率、妊娠率全てが正常受精(2PN)の場合を下回ると言えます。
しかしながら、当院においては異常受精(1PN)の胚盤胞を移植し、無事に出産したケールもあり、当院では決して皆さまの願いを叶えるチャンスを諦めることはありません。
2017年以来、異常受精(NPN、1PN)でも培養を続け、胚盤胞へ達したのちに凍結保存を行い、移植時の2つ目の選択しとしています。
参考文献
- Birth of nine normal healthy babies following transfer of blastocysts derived from human single-pronucleate zygotes. J Assist Reprod Genet (2015) 32:1401–1407
- Developmental potential of clinically discarded human embryos and associated chromosomal analysis. Scientific Reports | 6:23995 | DOI: 10.1038/srep23995
コメント
受精の初期過程:精子の先体から酵素が放出→放線冠を通過したのち、先体反応が起こる。→精子の頭部が卵細胞膜と融合する→精子DNAが卵子内に入り込む→卵母細胞の活性化→第2極体が排出される→精子・卵子それぞれの原核が形成される(2つの原核。いわゆる2PNと呼ばれる状態)→この2つの原核が徐々に中心に近づき、融合して1つになり、徐々に消失して2倍体の受精卵(接合体)が形成される。
受精の過程で、精子や卵子の異常や染色体異常があり、核が1つ、もしくはない場合、異常受精(1PN・NPN)と呼ばれます。そして正常受精の場合は核が2つとなり(2PN)発育速度も早いです。卵子の発育速度が早い場合、培養師が観察を行ったときには2つの核が既に融合し、1つの核のみが確認できるため異常受精であると誤判断してしまうケースもあります。異常受精となった経緯は不明確ですが,胚盤胞へ到達することもあります。しかし移植の優先順位は、決して上位ではありません。
当院の2015年から2020年までの統計データによると、異常受精(1PN)の胚盤胞を1つ移植し、出産した方は1名。異常受精(NPN)の胚盤胞を移植し出産した方は3名でした。異常受精の胚盤胞は染色体異常率が高く、出産を迎えたケースは多くはありません。しかし、当院では、最後までやりぬく精神を大切にしています。希望の種である大切な胚盤胞を軽々しく放棄したり、奇跡と感動の創造を諦めたりはしません。
*実際の治療は医師の診断のもと行っていきます。
本文は編集当時の治療状況、及びご提案です。