2016-02-01

産後の大量出血に気をつけて!5つの原因を教えます

華人健康ネット【文/産婦人科医師】

しばらく前にテレビで話題のニュースがありました。「我是歌手(I AM A SINGER)」という中国の音楽番組があり、台湾から来た歌手たちと互いに歌声を競い合う番組で、短期間のうちに台湾、中国、香港、マカオと多くの地域で人気の番組となりました。
その内の1人の実力派歌手「彭佳恵」さんは2年前、産後に大量出血をして3,000ccの輸血を行って命が助かったのですが、その独特な歌い方やステージでの魅力あふれる振る舞いを見ていると、とても生死の境を彷徨ったとは想像もつきません。
 

産後の大量出血は予防が難しいため、分娩後出血の危険性について絶対に軽視してはなりません。
分娩後出血(postpartum hemorrhage,PPH)、又は中国語で血崩と言いますが、これは産後に出血量が500cc以上である場合を言います。
ほとんどが出産を終えてから24時間以内に発生し、これを「早期分娩後出血」と言います。時には分娩後出血はすぐに発生するとは限らず、産後1日か、産後1~2か月以内でさえも起こる可能性があり、医学的には「晩期分娩後出血」と言います。
分娩後出血の発生の原因は様々で、危険性も異なります。
しかし、その原因に関わらず、出血量が一定量に達した場合は妊婦の健康を脅かして血液凝固作用の阻害を引き起こします。場合によってはショック症状が出たり、死亡に至ることもあります。
そのため、発生原因や応急処置方法を理解しておくことで、産後の大量出血の危険から逃れることができます。
 
分娩後出血を引き起こす原因は主に以下の5項目となります。
 
1. 子宮弛緩出血
これは分娩後出血の最も主要な原因です。
子宮弛緩出血の原因は、胎児の体重が重すぎる、多胎児の妊娠、羊水過多、麻酔薬の影響、妊娠期間が長すぎる、前回の妊娠で子宮弛緩の病歴がある等があります。
子宮収縮不全による大量出血に対処するには、通常は「子宮収縮剤」による薬物治療を行うほか、子宮をマッサージして子宮が硬くなるまで行い、その作用と同様に子宮収縮作用を強化します。
 
2.産道損傷
これも分娩後出血のよくある原因の一つです。
主に膣から出産した後、膣、会陰又は子宮頚の裂傷による出血です。産道損傷は時に失血速度が速く、たとえ縫合した後で傷口に再出血の現象がなくても、裂傷は深いところに血腫を形成し、産後に妊婦の生命徴候が安定しないという事態を引き起こします。通常、医師は裂傷部分の血管に対して緊急縫合手術を行い、止血するためにガーゼで傷口を圧迫します。
 
3.胎盤遺残又は癒着胎盤、前置胎盤
時に産後の胎盤が完全に脱落していない、又は「副胎盤」が残っていることがあり、これは分娩後出血の現象を引き起こすことがあります。
通常は産後に排出した胎盤の外観を検視しなければならず、もし胎盤が完全に排出されない、又は子宮収縮が良好で、産道に損傷が無いことを発見した場合、副胎盤が存在する可能性を疑います。超音波で検査をした後、胎盤鉗子で取り出し、時には子宮に手を入れて強制的に胎盤剥離を行うこともあります。
 
出生前診断で妊婦に癒着胎盤や前置胎盤の現象を発見した場合は帝王切開の時に大量出血を起こしやすくなり、ひどい時は止血をするために胎児を娩出してからすぐに子宮を切除しなければならないこともあります。
 
4.子宮破裂
子宮の手術をしたことがある、帝王切開後の経腟分娩にチャレンジした、又は分娩時に不適切に腹圧をしたなど、全て子宮破裂を引き起こすことがあります。
子宮破裂は深刻な腹腔内出血を引き起こす恐れがあり、適時に発見して治療しない場合は、致死率がかなり高くなります。
 
5. 血液凝固障害
妊婦が自分の疾病のために抗凝血薬を服用している、又は血友病、血小板減少症などの先天性血液凝固因子障害は、分娩後出血のリスクを高めます。
 
「分娩後出血」は予期できず、且つ予防する方法がない緊急事態です。分娩後出血の発生原因は様々であることより、その危険性も大きく異なります。通常早期分娩後出血の危険度は晩期分娩後出血より深刻で、すぐに処置しなければなりません。胎児が大きすぎる、双生児、前置胎盤などで事前にハイリスク妊娠と見なされている場合は、対応が間に合わないことがないよう、事前に予防、準備をすることができます。
 
最も大切なのは、出産後は医療関係者が警戒性を持ち、失血の危険性を軽視しないことです。
定時に妊婦の血圧、心拍の状況を確認し、子宮を触診して子宮収縮の強度を評価して、悪露の量や傷口の状態を観察しなければなりません。
 
分娩後の少量の出血は、止まらない大量出血へと変わることがあり、時には速度がとても速くなります。そのため、判断や処理は急がなければならず、一刻一秒を争います。経験のある医療関係者は必ず高度な警戒心が備わっており、迅速に対応することができます。
最も重要なことは出血の原因を知り、原因に対して適切な治療方法を選択することです。
すぐに輸血や遺伝子組み換え活性型血液凝固第Ⅶ因子を行うほか、出血の状況がひどい場合は手術を行い、必要であれば子宮の切除もやむをえません。
 
しかし、将来再度の妊娠を考慮しているのであれば、現在は「動脈塞栓術」を選択することもできます。
血管のX線撮影を利用し、マイクロカテーテルで大腿動脈を沿いながら出血点を探し出します。
その後水膨潤する塞栓物質を動脈内に入れるか、バルーンを利用して、子宮の動脈を塞栓させることで止血して子宮を残すことができます。
出血過多を減少させるだけでなく不運な死亡率を下げ、しかも女性の生殖能力を残せるため、女性にはとても良い選択となります。